専門家-非専門家の評議コミュニケーション

下記論文のダイジェスト版
(詳細は論文をご参照ください)

村山 綾・今里詩・三浦麻子(2012) 評議における法専門家の意見が非専門家の判断に及ぼす影響-判断の変化および確信度に注目して‐ 法と心理12(1), 35-44.

【本研究の目的】

・専門家−非専門家の評議コミュニケーションにおいて、専門家が非専門家に及ぼす行動的、心理的影響を明らかにする。

【方法】

・参加者…大学生・大学院生93名(平均年齢21.15歳、男性24名、女性69名)
・実験協力者…平成23年度司法試験に合格、模擬裁判の経験を持つ28歳の男性
・大学生3名、専門家役の実験協力者1名の計4名集団×31集団
(このうち1集団は実験内容に疑問を抱いた参加者がいたため分析からは除外)
・初期意見は、有罪多数派条件、対立条件、無罪多数派条件の3つを設定
・評議の進め方は、最初に意見を表明してから話を進めるか(評決主導型)、様々な証拠の扱い方を中心に話を進めるか(証拠主導型)の2つを設定

・実験の流れは以下のとおり。

※専門家は、常に「有罪」と主張

【結果】(画像はクリックで拡大)

・討議前後での判断の変化(結果1)と、自分の判断に対する確信度(結果2)について検討。

・判断の変化のパターン(有罪のまま、無罪のまま、無罪から有罪)ごとに評議前後の確信度を比較。
(有罪から無罪は90名中1名しかいなかったため分析から除外)

【まとめ】

・専門家の意見は、非専門家の行動的側面(意見変容)、心理的側面(確信度)に影響を及ぼす。
・認知的中心性が裁判官にある限り、初期意見が裁判官と一致している参加者が裁判官と異なる意見に最終的に変更することはほぼない。
・専門家と異なる意見で評議を終えた場合、自分の判断に自信を持てない。
・評議過程は、裁判員が事件を理解し、裁判官や他の裁判員と同じ結論を出すための「確認」の場にとどまっている可能性が高い
・ 本研究では専門家が非専門家に及ぼす影響を検討したが、非専門家が専門家に及ぼす影響についても今後検討する必要があるだろう(制度施行後にみられる厳罰 化や量刑の分散は、非専門家である一般市民の意見が反映されているのかもしれない。しかし検察の求刑も制度施行後に厳罰化傾向にあるため、実際のところは 何が大きく影響しているのかわからない)。