有罪・無罪判断と批判的思考態度

方法等の詳細は、以下のリンク先のPDFをご覧ください。

村山綾・三浦麻子 (2012).  覚醒剤密輸事件に関する公判シナリオを用いた有罪・無罪判断のテキストデータ分析 -批判的思考態度との関連-  法と心理学会第13回大会論文集. 1.

結果のダイジェスト

【本研究の目的】

・無罪判断が妥当な公判シナリオを使用して、批判的思考態度と有罪無罪判断との関係を明らかにすること。
・批判的思考態度の程度と有罪無罪判断の組み合わせによって、判断の理由に用いられるキーワードが異なることを明らかにすること。

(批 判的思考とは、証拠の分析、問題解決、意思決定といった、質的に高次な論理的思考を意味します。自分の推論過程を意識的に吟味する反省的思考です(楠見, 1996)。このような思考に基づいて物事を解釈・吟味しようとする態度は、論理が妥当であるかに関係なく、自分の信念と一致しているかどうかによって結 論を出すような信念バイアスの回避につながることが示されています(平山・楠見, 2004)。

【方法】

・参加者…大学生・大学院生144名 (男性36名、女性108名;平均年齢:20.6(SD = 1.16)歳)

・手続きと測定項目
公判シナリオ(覚せい剤密輸事件に関するもので、無罪判断が妥当なシナリオ)を読んだ後、以下について回答。
・有罪・無罪判断
・判断の理由(自由記述)
・批判的思考態度尺度(平山・楠見, 2004)

【結果】

・有罪・無罪判断の人数内訳…有罪67名、無罪77名
・判断の理由で記述された文字数…有罪判断と無罪判断で有意差なし
・批判的思考態度の得点…無罪判断>有罪判断(p < .10)
・判断の理由の回答で使用された頻出語を同定し、判断(有罪・無罪)×批判的思考態度(高群・低群)に基づく対応分析結果
(クリックで拡大します)

・対応分析では批判的思考態度を軸とする明確な解釈ができず、判断理由との関連については今後さらなる検討が必要。

陪審研究では、さまざまバイアスがあったとしても陪審はおおむね証拠に基づいた判断を行うということが報告されています(Rose, Diamond, & Baker, 2010)。裁判員制度でも同様の結果が得られるかどうかは、今後検討しなければなりません。しかしながら施行からの年月が浅く、また評議の完全非公開や 裁判員の守秘義務等から、特に評議における裁判員の判断過程を解明するための環境に乏しいのが現状です。裁判員制度の効果性を検証するためには、評議の部 分的公開や守秘義務の緩和を含め、研究知見を積み重ねるための制度改正も同時に必要ではないでしょうか。加えて、法学、心理学、教育学といった、複数の専 門分野の研究者による多側面からのアプローチが重要になると考えています。

【引用文献】

・平山るみ・楠見孝(2004). 批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響―証拠評価と結論生成課題を用いての検討―. 教育心理学研究, 52, 186-198.
・楠見孝 (1996). 帰納的推論と批判的思考 市川伸一(編) 思考 (認知心理学第4巻),東京大学出版会. pp.37-60.
・Rose, M. R., Diamond, S. S., & Baker, K. M. (2010).    Goffman on the jury: real jurors’ attention to the “offstage” of trials. Law and human behavior, 34, 310-323.